あの、今回は、明るい話じゃないです。だから、これを読んで、気分がブルーになっても、私は保証しないです。すいません。
さわやかな秋晴れの中行われた、秋の天皇賞。TVを見た私の目に映った馬の中で、ひときわ気になる馬がいました。サイレンススズカ。TVでは、彼の今までのレースの様子がビデオで流れていました。…逃げ馬か。
ふと、私の頭の中には、ミホノブルボンの顔が浮かびました。彼も逃げ馬でした。ゲートが開くと、一直線にコーナーを目ざし、先頭に立ち、あっという間に一周して帰ってくる。なんて爽快な勝ち方!後ろの馬に、「抜けるもんなら抜いてみな!」と言っているような走りに、私は何度、しびれた事か。故戸山師の最高傑作、坂路の申し子、栗色の毛が、とてもきれいな馬でした。
サイレンススズカは、ブルボンと同じ、栗色(鹿毛)の逃げ馬でした。TVで見る彼の姿に、私は一目で恋をしてしまいました。あぁ、なんで私はこの馬の事を、今日知ったんだろう!遅すぎるよ!もっと前から知っていたかった。実際に見に行きたい。私は久々に、心にグッとくる馬を見つけました。これからずっと追いかけようって、思いました。
TVでは、「彼がどこまで逃げられるのか」、「どれくらいのタイムを出すのか」を話していました。単勝オッズは1.2倍。ダントツの一番人気。勝つのは当たり前、という事が前提で、語られていました。
そうしているうちに、発走時間。いまでも、ファンファーレが鳴ると、TVで見ていても胸の高鳴りは押さえられません。お金を賭けていなくても、好きな馬の晴れ舞台、大レースが始まるかと思うと、ドキドキします。競馬場に通っていた頃は、好きな馬の発走時間になると、ひたすら「がんばってー!」と声援を送っていたものです。「頑張って」って。。
ゲートが開きました。彼は予想通り、先頭に立ちました。快調に飛ばしていきます。後続をどんどん離して行く姿が、ターフビジョンに映っていたはず。会場全体が揺れるようなどよめきが、TVを通じて聞こえてきました。6馬身、7馬身、彼はあとの事なんか考えていないように、それでいて自分のペースで、走っていました。1000mを過ぎた時のタイムは、なんと57秒。信じられないスピード!私の目は、ますます釘付けになっていました。
ところが…。東京競馬場の第3コーナーを過ぎた所で、彼は突然、ガクンと沈みました。…えっ…
「…ちょっと、おっとこれは、サイレンススズカ故障発生です!」
「何という事だ!第4コーナーの前で競走を中止した武豊です!沈黙の日曜日〜!」
アナウンサーの悲痛な声。鞍上の武豊は、後ろを見ながら馬を外に出し、スローダウン。完全にびっこを引きながら、彼は外へ誘導されていきました。…呆然となりながら、ポロポロと涙がこぼれました。なんで…。なんで…。なんでだよ…。
レースが終わり、スタジオにカメラが切り替わりました。「それでは、今のレースをもう一度振りかえってみましょう。」斎藤陽子も、さとう珠緒も、泣いていました。斎藤陽子はそれだけを言うのが、精一杯でした。さとう珠緒は、番組の最後まで、言葉を発せられませんでした。私も、涙は止まりませんでした。
夕方のニュースで、彼が予後不良になった事を知りました。左手根骨粉砕骨折だったそうです。…しょうがないですね。そう言うしかないです。今日、1時間半の中継の間で、突然私の前に現れ、去っていったサイレンススズカ。少ししか目にできなかったけど、とても素敵な馬でした。……さよなら。君の事は忘れないよ。
ちぇー、マジ涙とまんないよー